「虫の文学誌」発刊

虫の文学誌  奥本館長が「集大成の一冊」と自ら称するエッセイ。
 中国や日本、西欧の古典から現代文学まで渉猟し、虫に関わる箇所を抜き出し、人間とは何かを考察するエッセイです。
 帯コメントは甲本ヒロトさんです。


  ※ファーブル昆虫館でもご購入できます(定価3,700円+税)

館長の部屋(ブログ) 2020

 
12月13日 ~ 盗まれた季節 ~
グリーティングカード  今年も大掃除、年賀状の季節になった。
 しかし歳末という雰囲気は全くない。
 だいいち暖かいし、そういう気分は年々薄れるばかりである。
 私も中学生ぐらいの頃から、何日もかけて年賀状を書いたものであった。
 本当はそんなことをしていないで、勉強でもした方が良かったのかもしれないが、版画を彫り、
 宛名を書いて、それが乾くまで机の上だけでは足りずに、床いっぱいに広げたりした。
 今年は新型コロナによって、盗まれた一年という感じ。
 春ごろには希望者にワクチンが打たれるようになるのだろうか。
 盗まれたものを取り返すのは難しいことである。
11月22日 ~ ギョボクとツマベニ ~
ギョボク  ツマベニチョウの食草は、ギョボクである。
 我がファーブル昆虫館でも、建物の横に、この食草が植えてある。
 ツマベニを飼うためだが、ひょっとしたら、九州の佐多岬あたりから、迷蝶として飛んできてくれないかと、
 冗談半分に思っている。
 2006年に植えたギョボクが、なぜか、ずいぶん旺盛に茂ってくれる。
 茂り過ぎて、2階に届き、風が吹くと建物にギョボクのそよいだ跡がつくほど。
 時々枝を払わなければならない。
 よその人に聞くと、東京では、普通、そんなに大きくならないという。
 「なぜこの木だけ、こんなによく茂るのか」不思議に思っていた。
 それが、今年の夏の改修工事の折、建設会社の人の一言で解消した。
 つまり、建物の表面に張ってある、銀色の軽金属が太陽光を反射し、それをギョボクが吸収しているのであった。なるほど。
 地球温暖化は困るけれど、ツマベニには、飛んできてほしい、と思っている。
10月12日 ~ スズメバチのシガイ ~
スズメバチ  昆虫館の周りは市街地だが、コンビニはあまりない。
 坂道を動坂のほうに降りた交差点に、かつては二軒あったのだが、一つは今ピザ屋さんになっている。
 その反対方向、駒込病院の前のところに、もう一軒あって、私はもっぱらここを利用している。
 ここなら、坂道を上り下りしないで済むからである。
 しかし、本当を言えば、これくらいは歩いて、運動不足を解消したほうがいいのであるが。
 今日、そのコンビニに寄って、ビニール袋を下げて昆虫館に戻ってくる途中、スズメバチの死骸を拾った。
 コガタスズメバチの働き蜂だろうと思う。
 昆虫館の敷地のわずかばかりの茂みにも、この仲間が最近まで飛び回っていたけれど、とうとう
 死ぬ時が来たのであろう。
 秋が深まっていく。巣も空のはずである。
9月6日 ~ クヌギ坊主 ~
クヌギ  昆虫館ビルの大改修が始まって、表のクヌギの木を、高さ3メートルほどに切りそろえたのは、
 確か4月初めの事だったと思う。
 重機を使い、電動ノコギリで、専門家があっというまに切ってくれた。
 切った部分はクレーンで吊るして除去した。
 初めは「こんなにすぱりと切って大丈夫か」と心配になるほど綺麗に、幹の途中から切ったのだが、
 しばらくすると、そこからばっと、噴出するように芽を吹き、たちまち元どおり緑が復活した。
 それで「もう一回切らないと近所からまた苦情が来る」と、またもや、くりくり坊主に切ったのが7月の事。
 今度も、木が枯れるのでは、と心配したけれど、今また猛烈に茂っている。
 つくづくクヌギは丈夫な木である。
5月27日 ~ 繭の繭 ~
ファーブル昆虫館  昨日、街中で、モンシロチョウを見かけました。
 越冬蛹からかえった成虫の生んだ卵の育ったものでしょうか。
 さて、ファーブル昆虫館は2006年に竣工してから約15年。
 繭をモチーフにした、特殊な設計の建物もあちこち傷んできました。
 現在、臨時閉館して改修工事が進んでいます。
 鉄パイプの足場を組み、繭はすっぽり網をかぶっています。
 再オープンする頃には少しでも平穏な日常が戻っていることを願います。
 その外、地上3メートルのところで、切りそろえたクヌギからは新芽が出て、伸びてきました。
 たくましいものです。

   
3月23日 ~ 蝶の唆え ~
batterfly's fascination  今度、こんな題名の本を出すことになりました。
 こう書いて「蝶のおしえ」と読みます。
 小学館の「本の窓」という冊子に2年間連載したものです。
 まあ、自伝的エッセイと言うのでしょうか。
 幼年時代から小学校卒業くらいまでの、おぼろげな記憶を綴ったものです。
 考えてみると、私の人生は、虫にそそのかされて、好きなように送って来たものなので、
 こんな題名になりました。
 帯には「大人のための児童文学」と書かれています。私の時代の、些事ばかり。
 実用の役に立つ本ではありませんから、読んでくれる方はそのおつもりで。

 
2月23日 ~ エキラボ ~
EKILABO niri  今日はいい天気。風も強くないし、日差しは暖かでありがたい。
 それにしても、西日暮里の駅で標本教室をやる機会があろうとは思わなかった。
 昨年10月、駅構内に”エキラボ”と称する、さまざまなイベントが開催できるオープンスペースができた。
 地元活性化の一環ということで昆虫館にもお声がかかり、月一度のペースで標本教室を開催させていただいている。
 昭和46年、山手線の新駅がここにできた当時、私は横浜国大の若い助教授であった。
 駅ができたことも意外だったが、早速「虫友社」という、虫屋相手の店が駅前にできたのはもっと意外だった。
 経営者の冠春三さんは運のいい人で、もともと親の代からの雑貨屋があった、その店の前に、駅が出来たのであった。
 「虫友社」では、昆虫採集の用具や標本の他に、飼育用の蝶の卵、幼虫も売っていたので、私としてはずいぶん利用させてもらった。
 虫の仲間も集まって、店先で話し込むというようなこともよくあった。
 その冠さんが死んでしまった今、この西日暮里の駅で、私たちが子供を集めてこういう活動をしている。
 何十年という時を超えて、虫がつなげる不思議な縁のような気がするのである。


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