『完訳 ファーブル昆虫記 第10巻 下』 (集英社) 発刊

完訳ファーブル昆虫記 第10巻 下  2017年5月26日に最終巻となる二十分冊目が発刊されました!
 刊行開始から12年。博物学の不朽の名著、遂に個人完訳完結!
 80歳を超えたファーブルが、幼年時代や高等中学校(リセ)当時の思い出をつづる、
 全221章のなかでも指折りの感動的なエッセイも掲載。
  ※ファーブル昆虫館でもご購入できます(定価3,800円+税)
  ※サイン本もあります!

館長の部屋(ブログ) 2017

5月20日 ~ 無警察 ~
buru  恐ろしい光景。
 昆虫館のクヌギの緑の葉陰で、チーチー、チュウチュウ、小鳥が騒いでいる。
 青っぽいスリムな小鳥で、シジュウカラのようだ。そこにスズメなどが寄ってきた。
 その群れが、表通りから昆虫館の裏の民家の植木に移動した、と思ったら、
 真っ黒い、大きな鳥がワッサワッサと羽搏いて襲ってきた。カラスだ。
 そしてシジュウカラの巣立ったばかりのヒナらしい一羽をぱくっとくわえた。
 親がモビングするように攻撃するが、カラスは平気で、親鳥の目の前でヒナを脚で押さえ、羽をむしって食べはじめた。
 その間約五分。びっくりした。
 野生動物の世界は無警察状態である。
5月5日 ~ 標本修理 ~
buru  書斎の壁に昆虫標本を掛けて毎日眺めている。
 カーテンを開けたままにしておくと朝日が当たるので、梅田さんに頼んでUVカットの透明膜をガラス面に貼ってもらった。
 さて、中に何を入れるか。自分の特に好きな虫。
 でも紫外線で標本が褪色すると惜しいから、たくさんある虫にする。
 まあ、それほどたくさんあるわけでもないけれど、インドネシア、ブル島のブルキシタアゲハ。

koto  それと同様に真珠色に光るコウトウキシタアゲハ。
 それから、ヤンソニーテナガコガネ、とバランスを考えながら刺していって、ルリモンアゲハを刺したら、
 尾状突起が折れかけてひらひらした。
 そこで、修理に熱中する。
 髪の毛を取って木工用ボンドをつけて芯にする。
 それからまた少しずつボンドをつけて・・・と結構時間がかかる。
 しかし、楽しくないこともない。
4月30日 ~ シトロンの花咲く ~
lemon  「昆虫館」のレモンが今年はずいぶんたくさんの花をつけた。
 去年は五つ六つ、花が咲いたのだけれど、実はひとつしか生らなかった。
 そういえば一昨年は五つ六つの実が生ったのだった。
 このレモンは、夜店で買ったものだと思う。
 一年経って鉢のまま、枯れそうになっていたのを地面に下したら、元気になって生き返ったようである。
 人間もマンションなんかに住んで衰えているのが、地べたに建った家に住み替えたら、若返ったりして・・・そうはいかないか。
 もちろん、アゲハの食樹として植えたのだが、場所が悪いのか、蝶はあんまり来ない。
 それでも「シトロンの花咲くところ~♪」という昔の歌を思い出すよすがにはなる。
4月8日 ~ 完訳記念 ~
j h fabre  ファーブル『昆虫記』完訳版の第10巻下、つまり、二十分冊目がこの5月26日に出ることになっている。
 著者というものはだいたい出版の3か月前に縁を切られてしまうことになっているので、
 訳者の私も、校正刷そのほか、もうまったく手を離れてしまっていて、手も足も出せない。
 ところが、集英社インターナショナルから出ている「kotoba」という言論誌で、
 完訳記念号を出してくれるというので、解説めいたものを書いている。
 本編にはもう一切、手を加えられない中、寄稿を書きながら著書に思いをはせているところだが、
 ファーブルの生涯とその仕事を紹介しようとすると、その実績や功績の膨大さ・・・、あらためて感心する。
 ファーブル以前と以後とで、西欧人、日本人の昆虫に対するイメージはずいぶん違ったはずだが、
 そういうことについて論じたものはあまり見当たらないようである。
 この完訳を機に、大人の方がファーブルを読むようになってほしい、と私は思っている。
3月11日 ~ ヒエログリフ ~
聖刻文字  歳を取ったから、というわけでもないだろうけれど、一日中、本や書類を探している。
 「あれがない、これがない」と、探すものに限って今すぐ必要な、大事なものばかり。
 ほんとうに不思議である。
 そしてその大事な物件は、用が済んで要らなくなると、すぐ出てくる。
 それが紙ならまだしも、電子ファイルとなるとどういうことになるのだろう。
 このまま全世界で膨大な情報がコンピュータという電脳箱に保存されたままになるのであろう。
 アラジンのランプの精のように、情報が待機しているところを想像すると何となく気持ち悪い。
 と書き始めたのは、今、大澤はるかちゃんの書いてくれた、エジプトの象形文字の紙を探していて見つからないからである。
 小学二年生のはるかちゃんは、象形文字の教科書を見ながら、小生に手紙を書いてくれたのだった。
 その現物が、今、無い。
 でもそのうちに出てくるさ。

 とここまで書いた紙を近藤さんに渡して、机の上を整理していたら書類のピラミッドからくだんのお手紙が出てきた。
 それがこの写真です。
3月5日 ~ 啓蟄 ~
水仙  ちょっと前まで、北風が吹くとふるえあがっていたのに、南風がふーっと吹くと
 急に優しさに包まれたような気になる。
 風に暖かさがあるなんて忘れていた。毎年のことなのに。
 つくづく娑婆はいいなぁ、と思って散歩していると、方々の家の庭に花木が植えてあることに
 気が付く。
 ほんと暖かい。近所のコブシの白いツボミが見る見る伸びる。ハクモクレンも咲き始めた。
 湯島天神はさぞや大賑わいだろうが、境内の梅や沈丁花の香りは薄まりつつあるか。
お祝い会  昆虫館の植え込みの水仙たちもそろそろ花期を終えそうだ。

 三階のワークスペースでは「昆虫教室」。
 参加者の小学生たちはじっと虫の話に耳を傾け、自分がもってきた質問をしている。
 伊藤さんと小生は二階の標本保管庫で整理作業。
 夏にスカイツリーで開催する昆虫展の準備ということもある。
 ときに今日は啓蟄。春になると忙しい。
2月5日 ~ カブトムシの詩人 ~
カブちゃん一日館長  よく地方の駅などで、「一日駅長」の催しがある。
 なかには猫が駅長さんになっいるのもあって、こういうのは法律上はどういう扱いになっているのかなぁと思っていたら、
 今日、ファーブル昆虫館の館長さんはカブトムシだという。
 いや、虫ではない。カブトムシゆかりさん(以下 カブちゃん)が館長を勤めてくれるのである。
 ささやかな任命式典のあと、私も付き添ったがイベント参加者たちと館内を巡回。
 そのあと、カブちゃんが講師となって昆虫教室を開催。これが盛り上がったこと!
 カブちゃん先生が出す問題に小学生たちが「ハーイ」「ハーイ」と絶叫して、こっちは耳が痛いくらい。
 彼女はそういう子供の意見をうくまひろいあげ、公平に当てていく。
 ボクとのトークショウはほとんどアドリブだったが、さすがにテレビのバラエティ番組で鍛えられているのだろう、
 どんなフリでもテーマでもくるくると頭を回転させて見事にさばいていく。
 あとで廊下で会った子供たちからも面白かったと反応があった。
カブちゃん一日館長2  夜はイベントの慰労もかねてスタッフのみなさんと打ち上げに繰り出した。
 一週間遅れになったようだがささやかなお誕生日祝いもして、夜の部も盛り上がった。
 そして、宴たけなわのなか、カブトムシの詩人はテレビのロケ現場へとでかけていった。
 一日館長、おつかれさまでした。




1月22日 ~ 日本の未来は明るい ~
標本教室  今日は「甲虫標本教室」の開催日。
 数年前の標本(乾燥品)を蒸し器で蒸す。
 20分くらいで、関節が柔らかくなるので、左右対称に整えて針で止める。
 今日の受講生は9名。顔なじみの子もいる。
 なかなか器用で、講師の話をよく聞く。日本は大丈夫だ。
 生徒さんは最初に好きな虫を自分で選ぶのだが、
 それがスマトラの大きな青い筋のある(横縞の)カミキリだとか、アルキデスヒラタクワガタだとか、立派なものばかり。
 小さいときにこんな豪華種を練習台に使ってバチが当たらないかと、昔人間の私などは思うのである。
 「今日は何でここまで来たの?自転車?」
 「歩きです」
1月14日 ~ ヘラクレスの悩み ~
ヘラクレス  日本では、どこの家庭のヘラクレスも、(もちろん一般家庭にはそうそういないだろうけど)
 狭いプラスチックケースに入れられて、昆虫ゼリーを与えられて住んでいるはず。
 ところがそれをなめようとすると、ゼリーの容器は押されてケースの壁際にずれていく。
 すると今度は長い角がつかえて口が届かない。結局ゼリーが食べられないのである。
 角が立派なのも善し悪し。
 気の毒なので、中央においた木片にゼリーを画鋲で固定してやった。
 それでやっと彼は食事にありつき、見ているこちらも安心した。
 牙が伸びすぎたアフリカ象などにもこんなことがあったりして。
 キリンも池の水は飲みにくい。
 人間だって、牙や首が長すぎると、盃の酒もジョッキのビールも飲みにくいだろうと思う。
 手が器用でよかった。
ヘラクレス  ところで、年末にヴェトナムから帰って昆虫館に来てみると、冷蔵庫が新品になっていた。
 扉を開けると空っぽで、庫内がぴかぴか光っている。
 これならビールでも何でもたっぷり冷やせる。
 ところが冷凍室のほうには何やら冷凍食品がぎっしり詰まっているから、
 どうやら冷蔵庫を買い替えたわけではないらしい。
 訊いてみると、暮れの大掃除の際、近藤さんと高根さんが意地になって古い中味を取り出して捨て、
 空になった冷蔵庫の中を磨き上げてくれたのだ。
 その古い、古い中味とは、何年も前に消費期限が切れた瓶詰のジャムとかギョーザのたれとか、
 いつのものか不明の、さまざまな横文字のパッケージに包まれた海外旅行のお土産とか・・・
 積年の残滓が山となっていたのである。・・・

1月7日 ~ ヴェトナムのクリスマス ~
ホーチミン  12月24日、クリスマスにヴェトナムへ行きました。ホーチミン市、すなわち昔のサイゴン。
 1970年代のヴェトナム戦争のことなんかもうみんな忘れてしまったかもしれないけれど、
 その頃学生だった我々七十老人には、消すことのできない記憶である。
 今、市街を歩いているヴェトナム人たちも、田んぼに死体がゴロゴロし、迫撃砲の音がサイゴンの街中にドンと響いていた時代のことは忘れていないはず。
 その国に遊びに行った。
 ヴェトナムは食い物が旨い。ただし、言葉の発音がむずかしい。
 とあるレストランで、壁に、蔓性のランの花が描いてあった。
 その花にホウジャクが来ているところ。と、よく見ると、ハチドリのようでもある。
 もちろんハチドリは南米の鳥で、このあたりにはいない。
 しかし、画家はホウジャクとハチドリを混同しているのではないかと思いつつ、食事をしながらずっと見ていた。
蔓 space ハチドリ





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