2022.1.23
昆虫館三階の、黒板の前の机に、展翅板が置いてあるのが見えた。
「展翅されている蝶は何だろう・・・」
と、虫屋の本能みたいなもので、ちらと見ると、毒蝶(ヘリコニウス)のようだ。
実は今、昆虫館収蔵の大量の標本を整理していて、やがては電子登録して、探すものがすぐ出てくるようにしようと頑張っているところである。
それがちょうど、ブラジルの箱に差し掛かっているので、似たものが全て南米の蝶に見えるのである。
「おや、珍しい」
しかし、ブラジル政府が昆虫の輸出に関しては厳しいらしくて、最近南米の虫は入ってこない。
だから、標本教室でも展翅の見本に、使われることはないはず。
近寄ってよく見ると、ヘリコニウスではなくて、スジグロカバマダラだった。
「なるほど、スジグロカバマダラもヘリコニウスも、赤と黒の彩は同じなんだ。何か、毒蝶の基本の型とでもいったものがあるのか」と考えてみた。
しかも、両者とも、翅の先の方に、白斑がある。
だから翅を打ち下ろすと、フラッシュの効果は同じで、これら二つの毒蝶の飛ぶ姿は、そっくりに見えるに違いない。
近年の日本で見られる、これによく似たものは、ツマグロヒョウモンのメスである。
やっぱり翅の先の方に白斑を持ち、飛んでいるのを見ると、スジグロカバマダラかカバマダラによく似ている。
ただし、東京などには、モデルの毒蝶の方がいないので、ミミクリーウイドウなどと呼ばれるらしい。
池之端の自宅から、千駄木の昆虫館に来るまでの十数分の間に、飛んでいるのを3頭目撃した。
不忍通り沿いの住宅街である。
やっぱり、モンシロチョウとは違って、アゲハは、飛び方が力強く、速い。
一週間ほど前には、昆虫館で、カラスアゲハの雌を見た。
青い部分が広く、赤紋も発達して、まるで台湾高山のホッポアゲハのような華やかさだった。
産卵しようと食草を探しているらしく、迷っているような飛び方だったが、コクサギには興味を示さない。
カラスザンショウはずっと上の方に葉を広げているのに、背が高すぎてか、気がつかないような気配だった。
採って標本にしようか、とも思ったが、増えてくれたらと思って、しばらく眺めて、まだ早くて誰も来ていない館内に入った。